Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル

   “お正月の風物詩?”
 


近年、伝統行事の一環であるそれを除いて、
凧揚げをする子供というのはなかなか見られなくなったように思う。
昔々というほどでもない過去には、
電力会社が火の用心と同じほど、
電線の傍での凧揚げはやめましょうという広報を、
その頃その頃の人気アニメを使ったりして広めていた筈が、
気がつけばそんなCMもとんと見なくなったのは、
町から原っぱや広場が減ったから。
電線も増えたし道は隅々まで舗装され、
小道にまで車が入り込めるようになった分、
子供らは危なくて外ではうかうか駆け回れなくなり。
グラウンドや川原では、
やはりそこいらの広場を追われた
野球少年やサッカー小僧が集中するので
なかなか空かず。
そうこうするうち、少子化のせいか子供自体の絶対数も減って。
凧揚げという遊びは、
まるで自然現象のように、それは静かに音もなく、
子供の遊びではなくなっていったのだろう。
そも、凧揚げは、コマ回しや竹馬、お手玉やマリつきのように、
親や年上の兄姉から教えてもらう遊びでもあり。
教える側が減ってゆけば、子供は知りようがなく、
児童館などに行って初めて知ったという子もザラだそうで。



 「……ひとつ聞いてもいいか?」

そろそろ正月休みという空気も去ったか、
都会の空には冬だからというだけじゃあなさそうな、
仄かな灰色がかった色合いが垂れ込めており。
それでもいい日和の今日などは、
冷たい風との拮抗にと頑張っている陽光が、
時折北風に掻き回される坊やの金の髪を柔らかく照らして、
いたわるように そおと温めているかのよう。
そんな坊やの小さな背中が
ぽつねんと立っていたグラウンドには他に人の姿もなくて。
暇だ、迎えに来いとの呼び出しを受けた賊学の総長が、
その寒々しさにほのかに眉をひそめたほど。
日頃からもそういえば群れたがる性分の子供じゃあないが、
それでも気がつけば、誰かしらと一緒な子であり。
セナ坊やはどうしたのかな、ああそうかまだ冬休みかと、
自問自答をしつつ、
少し離れたところへバイクを止めてきたことを少しばかり後悔した。
ここまで乗り付けておれば、
イグゾーストノイズで気づいて振り返っただろうにな。
やわなところを見せるのが嫌いな子だから、
もっとしゃんと、強気な背中で待ってただろうにななんて、
少々センチメンタルなことを思いつつ、
前を開けたまんまのライダーズジャケットの裾をはためかし、
ザクザクと冬枯れした芝草踏みしだきつつ小さな背中へと近づけば。
少しばかり仰向いていたのが、
上空を見上げていたからだというのが判った。
今日は雲が少ない空の上、小さくなった凧が見える。
奴だこでも四角い凧でもない、
大昔にブームになったほど流行したと噂で訊いたことのある、
ゲイラカイトとかいう三角の洋凧で。
ハンググライダーを思わすビニールのこうもりのような凧が、
彼一人で揚げたのなら大したものだと
思うほどの高さで安定して留まっている。

 「………。」

そうまで凧揚げが好きだったとは知らなかったなぁと。
ここまで近づけば気配も何もなかろうに、
それでも振り向かない小さな背中を見遣り、
感慨深げにそう思いながら、もう一度顔を上げた葉柱だったが。

 「…なあ、
  もしかしてオレが来るまでは結構な風が吹いていたのか?」

後で知ったが、この凧はそれほど揚げるのが難しくはないらしく、
風もさして必要とはしないらしかったが、
それにしたって…今日はこの何日には珍しく、
風のない穏やかな日でもあり。
しかも極めつけには、

 「もしかして糸が見えんのだがな。」

  今流行の無線LANか?
  お、うまいこと言うじゃんか、ルイ、と。

やっとのこと応じて見せた小悪魔坊や。
糸巻きの代わりに手にしていたのがスマホ、つまりはケータイだったのでと
やっと気がついた葉柱も葉柱だが、

 「ラジコンの凧かよ。」
 「そういうことだ。」

糸持って走り回るの大変だしよ、
暴れられたら制御もややこしいじゃんか。
でもこれだと、そんなに場所もいらねぇぜ?と。
どこか自慢げに笑った坊やだったが、

 「そうやって揚げる面倒があってこそ、
  上手に揚がったら嬉しいんじゃねぇのか?」
 「あいにくと俺はそういうプロトタイプじゃねぇんだよ。」

色々と一徹な人にチョー失礼な物言いをしてから、

 「特製のアプリを高見せんせえが作ってくれてさ。
  スマホで動かすだけあって、
  ラジコン以上の遠距離まで制御が利くんだぜ。」

そうかいそうかいと、苦笑で頷いてやった葉柱だったが、
形はどうあれ、
こういうおもちゃで楽しそうに遊ぶのはまま悪いことでなし。
いかにも今時の様式だが、凧揚げには違いないかと、
無邪気なもんだと笑ってみていた総長さん、
実は偵察や監視に使うカメラ搭載のおっかないカイトだと知るのは、
新しいシーズンに向けての練習が始まってからのことだったそうな。




  〜Fine〜  12.01.08.


  *歳がばれちゃいますが、
   実はもーりんもゲイラカイトで遊んだことのある世代です。
   随分と小さい頃の話ですが、
   それでもあの特徴のある形の凧は覚えておりますよ。
   風の強いグラウンドまで、お父さんと揚げに行ったもんです。

   それはともかく。
   子悪魔さんはまだまだおセンチになる歳じゃあないようで、
   やっぱりというか頼もしいというかで、
   新兵器を試運転していただけのようで。
   今時の子です、はい。


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